2018年03月19日

急性心筋梗塞!? 患者はピンピンしてんのに



野村周二
 26歳 東京医科歯科大医学部付属病院の後期研修医

後期研修とは
前期研修で内科系外科系の大半の診療科を2年間ローテートしたあと 専門医をめざし自分の専門科目を深く研鑽してゆく後半2年間の臨床研修である

彼は東京医科歯科大医学部の出身

小さいときから 本を読むのが好き
高校生のときの愛読書は 前衛 日本共産党が編集・出版する雑誌である

バセドー氏病ではないが 眼球が突出 目玉のまっちゃん など陰口をたたかれてきた

彼が目指すのは 循環器内科専門医

そんなわけで

現在の病棟の受け持ち患者は 和井内貞義 48歳 男性 トラック運転手
年齢のわりにおなかがでている いわゆる obesity +20%
身長168 体重 68.2kg 血算で異常値は 尿酸だけ 

主訴は 半年前から眩暈めまい ふらつき 浮揚感があり 自分でも不整脈を感知

運転中に気が遠くなることが重なり 不安を覚えて東京医科歯科大学循環器内科を受診

外来での検査結果で即入
彼の受け持ちに

ホルター心電図などの検査結果で unstable angina pectris 不安定狭心症 と診断された

心電図は研修医の訓練も兼ねて 毎日 患者に心電図の端子を装着、チェックするのだが
きょう早朝のEKGは 野村にとって腰を抜かす結果を描出していた

側壁の急性心筋梗塞!

12誘導 が標準の記録の撮り方なのだが 
第1 第2 aVL で大きなQ波を記録していた

野村の足元に震えが走る ひさびさに背中は冷や汗でぐっしょり



周二は 学生時代のポリクリ実習のときに systric murmur 収縮期雑音がなかなか聴こえなかった

大動脈弁狭窄の82歳男性 個人タクシーの運転手 大滝
スターウォーズのヨーダみたいな体つき

当然 LVH 左室肥大 と EKGでの R の突出 が目立つ

10日間 毎日 彼のもとに通って彼の心音を聞かせてもらった
1音 2音 はわかるのだが 教授の言う ぶーーん という雑音が判らない

教授は 回診のときに 雑音がいちばん強く出ているあたりに チェストピース いわゆる 聴診器の丸い部分を当てたまま
耳管(聴診器の、耳に当てる部分)を外して 野村の耳に挿入するように促した

あわてて教授のステートを耳に掛ける野村
だが 雑音は聴こえなかった

軽い挫折感を覚える周二

大滝と野村が友人のように親しくなり ときどき私語をかわすようになると 大滝は周二になにかと話しかけるようになった
聴診器は大滝の声を大きく拾ってしまい なにもキャッチできなくなる

そのたびに 野村は 自分の口に人差し指を立てて しーっと合図を送り 大滝の私語を止めさせた
大滝はそのたびに 手で頭をかいて反省しきり
やっと通って 8日目に systric murmur 収縮期雑音がはっきり認識できるようになった

ぶーん ポン   ぶーん ポン と聴こえている

ぶーん が収縮期雑音  ポン が II 音
II 音 大動脈弁由来のAと肺動脈弁由来のPの二つの成分より構成される

循環器内科のポリクリあとのカンファランスで systric murmurがはっきり聴こえるようになったことを山本教授に告げると 教授は「そうか 聴こえるようになったか よかったな」と 人懐こい顔で笑った

野村は このエピソードで 循環器内科医になろう と決めたのだ


話は現場に戻って・・

通常 EKG心電図は 12誘導 が標準の記録の撮り方

今朝の和井内の 第T 第U aVL では 明らかに大きな波が出現している

周二は ドキドキしてきた

これって 急性の心筋梗塞ではないのか

心筋梗塞の発症は早朝に多く、また冬場に多いことが知られている
冬場に多い理由は、暖かい室内と寒い室外、同じ室内でも寒い脱衣場と暖かい浴室など温度差で血圧に大きな変動を生じ、心臓・血管に負担をかけるヒートショックが その要因になることが多い

貞義は まさに 冬の朝 病棟内の風呂で入浴 パジャマ姿で病棟に歩いて戻って来ていた
相当の負荷が心臓にかかっている

だが 和井内は にこにこ ベッドにちょこんとすわり
 バニラアイス 爽 を上機嫌で食べている

恐る恐る 野村は貞義の胸骨縁にステートをあててみる
剛毛がまばらに生えた胸は 野村は苦手だった

規則正しい1音 2音 
systric murmur 収縮期雑音などは いっさい聴こえてこない

ふと 野村は学生実習のときの いたずら を思い出した

両手首 あるいは 両腕に装着する端子を左右逆にすると 心電図は X 軸を対称軸に ミラーイメージになる 

左右逆EKG .jpg

つまり 上下 逆になるのだ

きょうの心電図の検査 右に装着する赤色の端子 左には緑の端子 色を確認しなかったような気がしてきた

船舶や航空機では 航路灯として 右舷に 緑  左舷は 赤 を点灯させるから 心電図とは 逆になるんだけど


確認のため もういちど 病棟検査室でポータブル心電図検査で 今度は 端子の装着箇所を確認
和井内の EKG を施行 正常波形であることを確認した

やれやれ



posted by 美容外科医ジョニー Plastic Surgeon Johnny at 17:30| フランクフルト ☁| Comment(1) | TODAY'S SHORT STORY | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする